ietoki Lifeietoki life(コラム)
interview with legend
まだ日差しも強く、10分も歩けば額から汗が出る暑い9月上旬。私は前職でお世話になったある方に話を伺うため東京都M区の街を歩いていた。
この日、数年ぶりにお会いして話を伺うのは、1960年代にドイツIBM本社に特別研究員として行かれ、その後三和銀行(現在の三菱UFJ銀行)の国内外の支店長を務め、2001年から在籍したコニカではミノルタとの経営統合に尽力。その後2008年から住宅メーカー一条工務店、一条分譲住宅の代表も務められ2022年に勇退。現在は尾道観光大使でもいらっしゃる経済界のレジェンド宮地 剛様だ。
今回は、久しぶりの再会からお互いの現状について雑談で盛り上がりながら、経済界に精通されており一条工務店という大手住宅メーカーで代表を務められた経験をお持ちの宮地様から見た現在の住宅、不動産業界について話を聞かせていただいた。
※よりリアルに感じていただくため会話口調で掲載させていただきます。
小笠原 「この度、宮地様にお話を聞かせていただきたいと思ったのは、いろんな経験と知識をお持ちの宮地様から見た不動産、建築業界についてお話をお聞かせてもらいたいと思ったからです。」
宮地様 「今の住宅業界は特にそうなんだけど、建物中心なんだよね。これは明らかに考え方としては、プロダクトアウトと言って生産者側の発想でいっちゃうんだよね。ところが顧客満足度ってよく言うんですけど、住まい手の方から見た時にどうなんですか?っていうと住環境というのは建物だけでなくて周りの環境の影響もものすごくあるんだよね。それともう一つ、建物の話をすると建物っていうのはバリュー(資産価値)としてはあまり肯定的ではないよね。建物は経年劣化していくと。この劣化のスピードが高性能住宅だと違うけど、ある会社は「東京に住もう」というキャッチコピーを打ち出して狭小地3階建てとか打ち出してるんだけど、それってプロダクトアウト的な発想で、しかも瞬間的な発想で、売る人は売って終わりだけど住む人はそこに何十年と住むわけですよね。そうすると住まい手の立場に立った考え方が凄く必要なんだけれども、そこを考えた営業、売り方であってほしいと思いますよね。住む人が後から困るような家を売ってどうするのよね。それを売ってる今の若い人はそれも分からず売ってたりするからね。本来ならば、行政とかが教育したり指導していかなければいけないと思いますよね。」
小笠原 「その行政の指導や介入がなかなか進まないと思うのですが、それはどうしてなんですかね?」
宮地様 「それはね、護送船団方式って知ってる?これは一番低速の船がついてこれるスピードで走ることを言うんですよね。例えば、1981年に建築基準法が大きく変わるんだけれども阪神大震災がいあってこれではいけないとなったんですよね。色んなことがそういうことなんですよね。でもそうは言ってられないからこれからはフロントランナー方式っていて前から引っ張ていく形でやっていくことも増えているんですね。この問題って本当に大きくって地震が起きて人が亡くなって初めて変えるのかと、当然行政も基準は上げたいのだけども上げられないのよ。ついてこれないところ(企業)がでてくるから。だから被害が出て初めて改定ができるというのが現状なんでここを変えていかなければいけないでしょうね。日本って黒船的な発想があるから危機が来て、事件が起きてからじゃないと動けないっていうね。結構学者も含めて使う言葉で「想定外」っていうのがあるよね。想定外だったから色々できなかったっていうんだけど、それって言い分け的な時もあるからその想定をぐっと広げた対策を取っていくのが行政のやることかなと。」
小笠原 「僕が思うのは、不動産や建築業界、行政も色んなしがらみがあって変われないところがあると思うので、消費者、購入者が変わることで業界や行政もそれに合わせて変わらないといけなくなると思うので、まずは消費者の意識を変えることが業界や行政を変えることに繋がると考えているのですがいかがですか?」
宮地様 「正にその通りで、消費者から入ってくるのがマーケットインと言って消費者の発想を業者がしっかり勉強して実行することが大事だよね。ある会社の社長が言ってたんだけど、LED電球と白熱電球の購入費と寿命を考えて、LED電球がいくらになればコスト的に白熱電球より安くなって売れるかを考えたのよ。これがマーケットイン的な考えなのよね。当然それが売れると他の企業も真似してくるのよ。でも最初に始めた会社はその先を行って成功するんだけど、その原点はマーケットインなんですよね。電球は簡単な例えだけど、住宅は何度も買うわけでもないし、情報も購入経験も少ないから行政の情報発信ってすごく大事だと思いますね。
小笠原 「購入時だけでなく将来のことも考えた情報発信をもっとした方がいいということですか?」
宮地様 「そうですね。住まいではなく、もっと広い概念の暮らし、生活という視点で住宅っていうのを伝えるかで、初期コストだけでなく一生涯の支出の1/3は住宅って言われるわけだから教育費と老後のお金と合わせて考えるのと、売って終わりではなく先のことも考える売り方をもっとしていった方がいいんじゃないかと思いますね。
小笠原 「ほんとおっしゃる通りで、僕も将来のことを考えた購入、将来のメンテナンスサポートを売り手が考えることが大事だと思うんです。」
宮地様 「それはとても大事なことで、大手住宅メーカーもやってるけど中古物件の方がもっと大事ですよね。」
小笠原 「正にその通りですが、購入者様も買ったら終わりくらいの勢いなんです。」
宮地様 「そうなんだよね!そこはお客様に教えないといけないよね。買ってから始まりだからね。もっとメディアでもそこを発信した方がいいと思うよ。なんで買って終わりになるかというと住宅ローンのことだけ考えているよね。例えば中古と新築は別のマーケットとなっているのが日本の後進性だと思うんですよね。僕はアメリカで見てきたんだけど、アメリカでは中古が買った時より売った時の方が高くなったのよ。海外では、珍しいことではなくて長持ちする家が当たり前なのよ。アメリカでは売る時のことや賃貸にすることも考えて、つまり資産として考えているのよね。」
小笠原 「お時間も迫っていますので最後の質問ですが、今後の不動産、住宅業界のためにどうすればいいと思うかをお聞かせいただけますか。」
宮地様 「やっぱりですね、住宅の価値を考える前にいい暮らしをするためのものが住宅だから環境とか利便性もありますが、トータルで考えることと、先のことも考えることですよね。そして将来の家族構成も変わるわけだから、そこも視野に入れてどんないい家を買うのかを考えることが大切だと思いますよね。そして次に大切なのが、行政とか不動産業者やメディアがそのために必要な情報開示が必要だと思いますね。」
小笠原 「ありがとうございます。そういう情報が開示されていくのが楽しみですね。行政がしてくれたら一番ですが、僕はそれを自分がしていきたいと考えているので今言っていただいたことを実現したいと思います。」
宮地様 「そのためには一人でできることは限られているから応援してくれる人と協力していくことが大事ですよね。ITの世界を使って上手くやっていくことですよ。」
小笠原 「おっしゃる通りです。本日は本当にありがとうございました。」
